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住民共生SCの「ことおこし」
SC協会月刊誌「URERU」6月号の「地域密着型SC」特集に、私が執筆した内容を紹介させていただきます。

●小商圏を対象とした地域密着型SCが求められている
相次ぐ大型SCの開発により競争が激化し、また急激に高齢化社会が進行しているなどさまざまな背景により、SCの商圏は大商圏から小商圏へと変化しつつある。
小商圏をターゲットとするには、店舗構成・品揃えはもとより、地域との密接な関係をつくり上げることが必要である。
全国的に展開している大型SCは、規模を追及し効率化・標準化を推し進めてきた結果、画一的なマニュアルに依存するオペレーションに陥っている。これからはさらに地域ごとに特色ある運営が求められる。

●地域密着型SCの実現にはソフトこそが重要である
一般に地域密着型SCとは、何をイメージするのか。最近特に語られているオープンモールの「ライフスタイルセンター」をイメージするのか、あるいは建物が四角の大きな「ハコもの」であっても、店舗構成や扱い商品が地元に目を向けたものをいうのか、解釈はさまざまである。いずれにせよ、建物のデザインや専門店の構成など開発時の問題として、ハードを中心とする「SCの類型」として語られていることが多い。
「地域密着SC」を実現するために最も重要なことは、DV(ディベロッパー)の運営姿勢と具体的な運営、すなわちソフトである。
ここでは、SC運営現場に則してソフト面から述べてみたい。

●SCが地域コミュニティーの中心に
都市再開発は長年の土地居住者のコミュニティーを崩壊し、大規模宅地開発や大型マンションの建設は、一挙に白紙の人間関係を生む。
また人々の交流の場であった中心市街地の商店街の衰退は、街の人々の交流を少なくしている。このように都市における人間関係がますます希薄になっている。
こうした状況の中で、SCは単にモノやサービスを販売するだけでなく、新たな地域コミュニティーの中心的な役割を求められている。SCに多くの人が集まり「賑わい」が生まれれば、SCからさまざまな情報が発信され、地域コミュニティーの中心として機能する。
SCが積極的にこの役割を担うことこそが、商圏内に長期的なファンを確保し、自らの長期的な売り上げを作り出すことになる。
地域との円滑なコミュニケーションには時間がかかるが、長期的な視野で考えるべきである。もとよりDVにとってSC経営は基本的には不動産投資である。
不動産投資は、投資期間に応じた長期的な収益を確保し、当該商業不動産の価値をあげることこそが目的である。

●日常の住民との個々の交流こそが基本
SCは地域に大きな影響を与えており、時として近隣住民の環境問題に悪影響を与えたり、旧商店街と利害が相反する場面もある。しかし私自身、SC経営の最前線にいた経験から、「毎日の運営の中で地道に地域に溶け込む努力の積み重ねこそが大切である。」と痛感した。
「地域」という言葉は漠然としているように思う。「住民共生SC」という言葉がぴったりするようである。「住民」とは行政の責任者であったり、あるときはSCの近隣居住者、既存の商店会長、来場するお客様であったりする。
SCが本気でこうした「住民個人」と地道な努力の積み重ねにより信頼関係を構築することが基本である。
SCが地元の町内会や祭礼に多額の寄付をし、年に数度の地元行事を受け入れて「地域との共生に配慮している。」などと考えることは誤りである。
すでに多くのSCで地域の活動を応援したりフリーマーケットを受け入れたり、住民参加型の企画は行っている。しかしここで大切なことは、地域の要請に対して「受身」で実施するのではなく、SCが「主体的」「戦略的」に住民とさまざまな接点を作り上げることである。近くの幼稚園で会があると聞けば、SC担当者が出向いてお菓子をプレゼントする、街の祭りには積極的に参加して神輿を担ぐ、子供が参加するパレードにはSCに入ってもらい晴れの舞台を設定してジュースなどのプレゼントをする。SCが地域社会の一員として、本気でこうした日常行動を積み重ねることこそが基本である。

●「住民共生SC」の実現には、きっかけとなる「仕掛け」が必要
地域住民と共生するSCを構築するためには、単に円満な付き合いをするだけでなく、さまざまな具体的な仕掛けが必要である。
私がサンストリート(東京・亀戸)の経営に携わっていたときには、地域のファンつくりを目指して、毎日が楽しいSCをつくる「賑わい」の演出をしようと年間500回をこえる手づくりイベントを行い、それなりの成果は得た。都度、地域との関係強化を意図してはきた。
しかし単なる「賑わい」の演出でなく、ここでは一歩進めて住民と共生し、あわせてSCの活性化を実現するための意図的に「仕掛け」を作る「ことおこし」を提案したい。

●「ことおこし」の具体的な実例
多くの企画があるが典型的な実例を二つだけ挙げてみたい。
*「マイタウン・ステージ」
地域には宝物が眠っている。伝統芸能を引き継いでいる人々、かつてプロとして活躍した歌手、スターを目指して勉強中のアーティスト、熱心に練習している和太鼓グループ、小学校のブラスバンド。また室内型では、絵画・写真・手芸などのグループ。このように数限りないスターが存在する。わが街のスターが登場すると関係者が応援に駆けつける。彼らを発掘して、SCに発表の場を設営しようというものである。
また地域の小さな活動や祭りを掘り起こすことも興味深いテーマである。
これらは目新しい考え方ではないが、「意図的」に実行する枠組みをつくること、そしてさらに重要なことは「継続」していくことがポイントである。
本当に価値のある地域情報は、机に座っていても得られない。SC担当者自らが地域社会の中で収集していくものである。このような企画から、専門家によるオーディションを経て、プロとしてメジャーデビューしたミュージシャンも生まれている。

*「よさこい」連(チーム)つくり
SCを核とした「よさこい」の連(チーム)を結成して育てていく企画がある。
地元の小学生を中心としたチームを作り、NPO法人の指導のもと毎週SCで練習し、毎月1回は新しく作った衣装をまとって張り切ってSCで踊る。多くの友だちや父兄も集まる。時とともに定期的な活動が大きくなり地域の祭りに発展していく。
こうした企画が突破口となって街の活性化を促し、地域文化振興の一翼も担うこともできる。SCが「地域コミュニティーの拠点」として機能し、人々の交流が生まれていく。
SCが地域のメディアになるといえる。

●「ことおこし」は「販促イベント」とは考え方が異なる
住民共生の「ことおこし」は、各種のプレミアムキャンペーンや一時的な集客だけを目的としたキャラクターショーのような販促イベントと異なり次のような特色がある。
○ SCが地域コミュニティーの中心となるための仕掛けつくりである。
○ 地域の方々と深い結びつきが生まれ、長期的な「ファンつくり」ができる。
○ 通常の一過性のイベントとは異なり、時の経過とともに地域に大きく育っていく。
○ 地域の文化振興のお役に立てる。
○ 地域ならではの特色を活かせる。
○ 他のSCと大きな差別化が実現できる。
○ 広告代理店が行わないSCならではの新しい集客イベントが実行できる。
○ 一般の販促イベントに比べてコストが割安になる。
○ 話題性があり、TV、新聞、雑誌などマス媒体に取り上げられる可能性がある。
これを従来の「販促イベント」「催事」と考えて、コストが安いのでメリットがあるなどと考えることは視点が違う。心の通うものにならないから長続きせずに結果的に目的を達成できない。
またこうした企画は、一般の広告代理店の範囲外であり、DV自らが企画、実行する必要がある。したがって、DVが新規SCオープンの直前に何社かの広告代理店を集めてプレゼンテーションをさせて、販促内容・発注先を決めるという従来の手法からは何も生まれる筈がない。

●「ことおこし」を実行するDV組織
「ことおこし」を実行するにはコストがかかる。現実のSC運営現場を考えると、販促予算から支出することになろうが、実行に当たりテナント会販促委員会の承認を得るなどという従来の枠組みでは実現しにくい。
従来の福引セールやチラシ、ポイントカードなど、またはキャラクターショーなど直接的な売上げだけを狙った一過性のイベントなどのマンネリ化した販促計画を見直す必要がある。そして「住民共生SC」を目指したDVの実行体制が必要である。
最も重要なことは長期的視野に立ったDVトップの理解である。

●さらに一歩進めたボランタリー組織
「ことおこし」の企画が軌道に乗れば、SCを中心としたボランタリー組織をつくることが考えられる。
例えばミュージシャンとして出演する人、活性化イベントの受付をやる主婦、会場設営を手伝う会社をリタイアした人、イベントの司会をやる大学放送部の女性などである。
これからの日本社会の中でボランティア活動のエネルギーはますます重要な比重を占めると思われる。ボランティアは、SCを中心とした地域の「ことおこし」活動に参加することにより、自らの「やりがい」を感じることができる。SCはこのグループに「ことおこし」イベントに協力していただくだけでなく、定期的に情報交換を行うことにより大きなメリットを得ることができる。
多くの地域情報を得て新たな「ことおこし」企画が実行できるし、かれらの生の声は日常のSC運営の重要なモニター機能を果たしてくれることになる。

●「住民共生SC」開発の問題
以上「住民共生SC」の実現に向けて「ことおこし」について述べてきた。
しかし実現するためには、本来SC開発コンセプトの決定に関わる問題がある。
本題でないので充分述べる紙面がないが、最後に次の点を指摘させていただきたい。
開発コンセプトは建築からテナントミックス、運営にいたるまで、総合的なものでなければならない。とかく開発時には、設計者やコンサルタントの「自然との調和」「人のふれあい」「地域との共生」など抽象的なコンセプトワードが掲げられることが多い。
述べるまでもなく、建築設計だけでなくテナント構成・日常運営にいかに具体的に実現していくかという実践的な方策こそが問われる。
しかし「開発」と「運営」が分断されているために支障を生じているケースが余りにも多い。SC開発は住宅やオフィスビルと異なり、まさに「オープンから開発が始まる」との感がある。
開発計画を立案する時にオープン後の具体的な運営方法も検討して、トータルな「SCコンセプト」を作成する必要がある。運営を分かる開発関係者は極めて少ない。
SC竣工直前に運営管理方法が決められるようでは、地域に根ざした特色あるSCは生まれるはずがない。細かい点を言えば、設計時にわずかな配慮が足りないばかりに、提案の住民参加「ことおこし」をやろうとしてもスペースや設備がなかったりして苦労する。

SCが、住民から「わがまちのSC」と認められるようになりたいものである。
地域特性を生かした「住民共生SC」の実現に向けて、開発・運営両面から具体的な提案を続けていきたいと思う。


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